ガラス、プラスチック、鉄、動物の牙、木、貝など、様々な素材で作られる‘ビーズ’。世界最古のビーズはアフリカで広く使用されているダチョウの卵と言われ、現在もダチョウの卵ビーズはアフリカ南部カラハリ砂漠で生活しているサンの人々の装飾品などに使われている。
17世紀、ヨーロッパで作られていたガラスビーズが物々交換などに使われ始め、徐々にアフリカ全土に広がっていく。アフリカに入ってきたガラスビーズは19世紀終わりごろから、南部アフリカのズールー、ンデベレ、コーサの人々や東アフリカのサンブル、マサイなどの人々の文化にさらに深くとけ込んでいった。 飾るという目的だけでなく、地位やメッセージを伝える手段、通貨の代用としても使用され、重要な役割を果たしてきた。現在もアフリカではそれぞれを象徴する生き生きとしたビーズ文化を見ることが出来る。
1960年代、ジンバブウェではスクラップから取り出したワイヤーを使い、車やバイク、動物をモチーフにした作品を作るワイヤーアートが盛んになる。不安定な国の情勢から独特のアートが生まれ、独自の発展を遂げていくことになる。何もないところから何でも作り出す精神はこの時代に生まれ、今もしっかりと受け継がれている。ワイヤーカーや、ワイヤーバイクは今でも人気のアートで、これを得意とするアーティストはタイヤをプラスチックバックで作ったり、ボディにカラーワイヤーを巻いたりと、仲間と競い合いながら、様々な挑戦を続けている。
1990年代、ジンバブウェで作られていたワイヤーアートとアフリカに古くからあるビーズ文化が出会い、ワイヤーアートをビーズでカラフルに仕上げるワイヤー&ビーズアートが生まれた。現在、ワイヤー&ビーズアートの拠点であるジンバブウェの町チトゥンギザでは、多くのアーティストたちが腕を磨き、アイデアを生み出し、自身の作品をアピールしている。マーケットは南アフリカに広がり、多くのジンバブウェ出身アーティストたちが南アフリカで活躍し、海外からの観光客などに人気のアートとなっている。制作にマニュアルはなく、ラジオペンチ片手にワイヤーとビーズのみで巧みに作り上げられた作品の中には、伝わる技と自由なアイデアが光っている。
まだ新しいこのアートだが、世界遺産‘グレートジンバブウェ遺跡’に見る美しい花崗岩の並びは、ビーズを巧みに扱う現在のアーティストたちの技に繋がっているのではないかと思いを馳せる。アーティストたちにとって、ワイヤー&ビーズアートは生きるための手段でもあるため、自分たちの技やアイデアを大切に守りながら制作活動をしている。
2013年8月ワイヤー&ビーズアートの発祥の地であり、アート制作拠点の町ジンバブウェのチトゥンギザを訪れた。多くのアーティストたちが集い、様々なもの作りをしていた。そこで出会ったのは、まさにもの作りの原点だった。ワイヤーのみで作られたヘリコプターは、スムーズにプロペラを回していた。進化したヘリコプターのモーターは使われなくなったDVDのモーター。木の下で出会った彼は斧でトラクター(John Deere)を切り出していた。トラクターのタイヤは、道路にあったバーストしたタイヤを削ったもの。キャップは缶から、サンダルはタイヤから。アイデアさえあれば、アートはどこからでも生まれる。